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東京高等裁判所 昭和55年(行ケ)1号 判決

審決に原告主張のような違法の点があるかどうかについて検討する。

(一) 本願意匠を記載したものであることにつき当事者間に争いがない別紙図面(一)及び成立に争いのない乙第三、四号証の各一、二によれば、本願意匠は、その一本の櫛の形状を審決のように菜切り包丁状というか或いは原告主張のように果物ナイフ状というかの点及び不使用時の全体形状を審決のように略長方形状といいうるかどうかの点を別にすれば、審決認定のとおりの態様のものであるが、不使用時の全体形状の縦横比は約四・三七(最も巾の広い部分との比)ないし五・九五(最も巾の狭い部分との比)対一であり、蝶番は、四隅に丸みをつけた長方形のもので、その縦横比は約四対一であることが認められる。

これに対し、成立に争いのない乙第二号証(引用意匠が記載されている実用新案出願公告昭四五―一〇六七五号公報)によれば、引用意匠は、審決認定のとおりの形態であるが、不使用時の全体の形状は正確な長方形(その縦横比は約三・六五対一)の四隅に丸みをつけた形であり、蝶番は通常の金属性棒軸蝶番のような角のある長方形状のもの(その縦横比は約二・一対一)を鋲様のもので柄に取り付けたものであることが認められる。

(二) ところで、審決は、本願意匠及び引用意匠に共通する「不使用時の対向した場合には、各々の歯が嵌合して、中央縦方向にジグザグ状の条模様として表われた略長方形板状を呈し、使用時の並列した場合には、側面が菜切り包丁状で二列の歯が相互に歯の間隙から表われる複合櫛となる態様」は、顕著な特徴があり、かつ創作の主体であつて、視覚的に最も強く看者に印象づけられるところで、両者の支配的態様であるとし、これを前提として、両意匠の類否を判断しているので、まず、この点について考察することとする。

前掲乙第二号証(引用意匠の記載されている実用新案出願公告昭四五―一〇六七五号公報。以下「引用意匠の公報」という。)及び成立に争いのない甲第三号証(実用新案出願公告昭四二―一二五八七号公報)並びに弁論の全趣旨によれば、引用意匠の公報記載の考案については昭和四〇年一〇月二七日、甲第三号証記載の考案については昭和四二年一月七日、いずれも原告によつて実用新案登録出願がなされ、先願である前者については後願である後者より後の昭和四五年五月一五日、後者については昭和四二年七月一七日、いずれも実用新案出願公告がなされたものであること、両考案とも、櫛の歯の隙間に詰つた汚物の掃除が容易で、衛生的で携帯に便利な櫛を得ることを目的としたもので、その構成としては、「歯が柄部より突出した菜切り包丁状を呈する板状の櫛二本を、並列又は対向可能のように柄の部分を屈折しうる連結体で結合したものであつて、対向した場合(不使用時)には、各々の歯は嵌合して、中央縦方向にジグザグ状の条模様として表われた形状を呈し、並列した場合(使用時)には、二列の歯が相互の間隙から表われる複合櫛となる」点を主たる要素としている点で軌を一にし、ただ、引用意匠の公報記載の考案は、連結体として布類・蝶番等を例示し、それに伴つて歯の全長の略二分の一が柄より突出した形状となつているが、甲第三号証記載の考案は、連結体として折り曲げ可能な弾性体を使用し、それに伴つて歯の全長の二分の一をこえる部分が柄より突出しているほか、弾力により自然に吻合状態に戻るという作用効果をもあげうるものであること、及び両考案は、いずれもその後、実用新案設定登録がなされているものであることが、それぞれ認められる。

そして、右認定の事実によれば、少なくとも、引用意匠の公報記載の考案につき実用新案登録出願がなされた昭和四〇年一〇月二七日までは、両考案において軌を一にする右の構成要素を具備する櫛は公知でなく、したがつて、その構成要素から必然的に表われる意匠を備えた櫛(歯の全長二分の一が柄から突出し、不使用時の全体形状が略長方形状のものを含むことは勿論である。)は、一般に知られていなかつたものと推認するに難くない。

しかしながら、前記認定の事実及び前掲甲第三号証によれば、本願意匠出願の七年六月余前の昭和四二年七月一七日には、前記の両考案に通ずる構成要素を記載しその構成の具体例を示す図面の附された実用新案公報が公にされていることが認められるから、この事実を考えれば、本願意匠出願当時には、右構成要素より必然的にもたらされる意匠としての形態が、意匠としての要部となりえないほどいわゆる希釈化されたことはないとしても、少なくとも、これが、物品の機構にまで関連するものであるという理由で、本願意匠における他の特徴を微差としてすべて取り上げえないものとするほど、意匠の支配的態様とされるべきものであつたとすることは、疑いなきをえないところといわなければならず、また、他にこれが右のように支配的態様であつたことを認めるに足る資料はない。(被告は、先行意匠について主張しているが、その主張の根拠となりうべき事実を認めるに足る証拠を提出していない。)

なお、本願意匠及び引用意匠に係る物品である櫛において、不使用時の形態が使用時のそれより意匠としてより大きく評価さるべきことは、原告主張のとおりである。

(三) 以上の観点に立ち、前記(一)において認定した本願意匠と引用意匠の各態様を対比すると、不使用時の全体形状について、引用意匠は、四隅を丸くした単純な長方形状でその縦横比も比較的小さいのに対し、本願意匠は、必ずしも原告主張のような複雑な形状とまではいえないとしても、柄部の上部にあたるところの左右に円弧状のくびれを附し、それより上下に向つて先細になるように形成したもので、単なる長方形状とは異なり、ある程度軽快な感じを与える形状であり、また、蝶番の形状にしても、引用意匠のものが通常の実用的な角のある長方形状棒軸蝶番を、鋲などで、柄の中央部に、その全部を覆うことなく上下を余して、取り付けられているもので、右蝶番の縦横比も比較的小さいのに対し、本願意匠のものは、中央屈折部分の両側に上下に貫く二本の条溝の付いた一体形成物とみられる隅を丸くした長方形の蝶番を柄の中央部の上下一杯に取り付けてあるもので、その縦横比も引用意匠のものと比較して相当に大きい縦長のものであるということができ、本願意匠における右の蝶番の態様は、前記の全体形状と相俟つて、本願意匠全体を、引用意匠が、考案の列示としてのまさに実用的な形態を示しているとみうるのと対比して、意匠として洗練された形状を有するものとしているもので、両者の間には、意匠上少なからぬ差異があるということができる。

審決は、各部の態様においても、櫛の全長の五分の三が歯で、片面(複合歯とした場合に外側面となる面)が平滑面である点、蝶番が長方形状を呈する点などをも、共通点として、両意匠の類似の根拠としているが、右のような点が、通常の櫛あるいは蝶番にとつて、とりわけて顕著な特徴であるといえないことはいうまでもないことであるから、前記被告のいわゆる支配的態様に右の共通する態様を合わせ考えても、本願意匠と引用意匠との前記の差異を、軽微なものとして類否の判断に影響を与えないものとすることはできないものといわなければならない。

(四) 以上によれば、本願意匠と引用意匠とは前記差異があることにより、これを類似するとみることはできないものといわなければならない。従つて審決が、そのいわゆる基本的構成態様等を共通にすることを理由に、前記の差異を軽微なものとし、両意匠を類似するとしたのは、判断を誤つたものというべく、その誤りが審決の結論に影響を及ぼすべきものであることは明らかであるから、違法としてこれを取消すべきものである。

よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとする。

〔編註その一〕 本件における請求原因は左のとおりである。

(一) 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和五〇年二月八日、特許庁に対し、意匠に係る物品を「櫛」とする意匠につき意匠登録出願(同年意匠登録願第五二五七号)をし、同月一三日付手続補正書により願書に添附した意匠を記載した図面を別紙図面(一)のとおりに補正(以下右補正をした意匠を「本願意匠」という。)したが、昭和五二年一二月二七日拒絶査定を受けたので、これを不服として、昭和五三年三月一一日に審判の請求をしたところ、特許庁は、これを同庁昭和五三年審判第三五四五号事件として審理のうえ、昭和五四年一一月一五日、右審判の請求は成り立たない旨の審決(以下「審決」という。)をし、その謄本は、同年一二月一〇日、原告に送達された。

(二) 審決の理由

本願意匠は、昭和五〇年二月八日の登録出願にかかるものであつて、意匠に係る物品を「櫛」とし、その形態は、歯の全長の二分の一が柄より突出した菜切り包丁状を呈する板状の櫛二本を、並列または対向可能のように柄の部分を屈折自在の蝶番で結合したものであつて、対向した場合(不使用時)には、各々の歯は嵌合して、中央縦方向にジグザグ状の条模様として表われた略長方形板状を呈し、並列した場合(使用時)には、二列の歯が相互の間隙から表われる複合櫛となる基本的な構成態様からなるもので、各部の態様を仔細にみると、櫛は、全長の略五分の三に歯を形成し、片面が平滑面で、柄の結合側寄りに小さな三個の縦長長方形の区割が表われ、他面は、背部から柄にかけて延長した部分は肉厚で、その他(歯及び柄の半分)は段部を設けて先細に形成され、峰(対向した場合の長手方向両側部)は、柄前方部に相当する部位をわずかな凹弧状とし、その両端からゆるやかな傾斜で先細に形成され、長手方向両端は、峰に至る角部が突出した弧状(峰部は角張つている)に形成されているものであり、両櫛の柄の段部を設けた部分に、中央長手方向に二本の近接した平行条溝を形成した長方形板状の蝶番を設けて結合しているもので、屈折して櫛を並列して複合歯とした場合には、側面は平滑面であることが願書の記載及び願書に添付された図面によつて認められる。

これに対して、原審において引用した意匠(以下「引用意匠」という。)は、昭和四五年五月一五日特許庁発行の実用新案公報記載昭和四五年実用新案出願公告第一〇六七五号の図面第1、2図に示された「折畳吻合櫛」であつて、その形態は、歯の全長の二分の一が柄より突出した菜切り包丁状を呈する板状の櫛二本を、並列または対向可能のように柄の部分を屈折自在の蝶番で結合したものであつて、対向した場合(不使用時)には、各々の歯は嵌合して、中央縦方向にジグザグ状の条模様として表われた長方形板状を呈し、並列した場合(使用時)には、二列の歯が相互に歯の間隙から表われる複合櫛となる基本的な構成態様からなるもので、各部の態様を仔細にみると、櫛は、全長の略五分の三に歯を形成し、両面とも平滑面であり、両櫛の柄の巾略半分に、中央長手方向に軸を設けた長方形状の蝶番を設けて結合しているもので、屈折して櫛を並列して複合櫛とした場合には、側面は平滑面であることが前記刊行物によつて認められる。(別紙図面(二)参照)。

そこで両意匠を比較検討すると、両者は同一物品であり、形態においても、前記のとおり、基本的な構成態様が共通し、各部の態様においても、櫛は、全長の略五分の三が歯で、片面(複合櫛とした場合に外側面となる面)が平滑面である点、蝶番が長方形状を呈する点においては共通しているものである、これらの共通点中、不使用時の対向した場合には、各々の歯が嵌合して、中央縦方向にジグザグ状の条模様として表われた略長方形板状を呈し、使用時の並列した場合には、側面が菜切り包丁状で二列の歯が相互に歯の間隙から表われる複合櫛となる態様は、当審の調査によれば顕著な特徴があり、かつ、創作の主体であつて、視覚的に最も強く看者に印象づけられるところで、両者の支配態様といえるものであり、類否を左右する主要素と認められる。

ただ、両者間には、各部の態様において、本願意匠の櫛の峰から両端の態様、段部を設けた面の態様に差異があるが、前者の差異は、部分的なもので、櫛の態様が菜切り包丁状を呈するという特徴を失わせるものではなく、後者の差異にしても、並列した場合には内側になる面であり、他面は共通していることもあつて、これらの差異は、前記の顕著な特徴である支配的態様の共通点から受ける印象からみれば微弱であつて、軽微な差異といわざるをえない。その他、本願意匠の平滑面に小さな縦長長方形の区画が表わされている点及び蝶番の長手方向中央の態様に差異があるが、いずれも限られた部位のわずかな差異であつて、これらの差異も軽微な差異にとどまるものというほかはない。結局、各部の態様における差異は、いずれも軽微な差異であつて、これらの差異が相俟つた効果を勘案しても、その差異は、前記した両者の顕著な特徴である支配的態様及びその他の共通点から受ける共通性を打破し看者に別異の印象を与える程のものとは認めることができない。

したがつて、両意匠を全体として観察した場合には、類似する意匠というほかはなく、本願意匠を引用意匠に類似するとして拒絶した原査定は妥当である。

〔編註その二〕 本件に関する意匠は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

別紙図面(二)

<省略>

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